銀座「やま袮」の敷地内に自宅がありましたので、幼稚園の頃から気がつくと店にいて、父が働く様を眺めていました。そのようなこともあり、物ごころついた頃には既に、「将来はお父さんのような料理人になる」と言っていたそうです。その後も「尊敬する人は?」と聞かれた時には「父です」と即答できる程、父の仕事ぶりや仕事に対する姿勢を尊敬していました。生きていく、仕事をする上でも、父から教わったことは数知れずあると思っております。 実際に店を継ぐと覚悟したのは、大学 4 年生の時でした。父の「修業前に変な癖をつけることはない」という考えで、学生時代には店の手伝いをすることも、他の飲食店でバイトをすることも一切ありませんでした。包丁もろくに握ったことがない無垢な状態で、父同様に大阪の吉兆で修業をさせていただきました。「吉兆」では、1年目は料理人見習が行なう「追い回し」、2年目は「追い回し」と野菜の切り出しの下ごしらえを担当し、基礎を教えていただきました。日本料理の技術を学ぶまでには到底及びませんでしたが、「掃除を徹底的に行なうことがお客様へのもてなしに通じる」といった心構えを学び、それは今でも役立っています。やま袮に戻ってからは、料理長の元で、和食の基礎や器のこと、ふぐ調理についてなどを学び技術を習得しました。同時に、様々な料理専門書を読んだり、また、他の料理店に行くなど独学の勉強も続けてきました。 現在は、女将・母と若女将・妻とともに、店の経営や料理のことなど全般に携わっています。昨年( 2003 年) 1 月より銀座「やま袮」は、ビルを新築して全面改装を行なったため、 1 年 10 カ月ほど休業致しました。今までの店舗は純和風だったのですが、新しいお店は、私と若女将のアイディアで大正浪漫風のモダンな作りにしました。やま袮はふぐ料理がメインの店ですから、冬場には「ふくコース」のみになります。博多のふぐ仕入れ店として名高い平越商店から、最上級の新鮮なとらぶくのみを厳選して直送していただいております。刺身は2枚引き(切り身に 1 度ではなく2度3度包丁を入れて大きい盤にしていく方法)を行ないます。それによりふぐ独特の歯ごたえをより満喫することができます。素材を厳選しているため、お値段は張りますが、秋~冬を代表する旬の食材ですから、ぜひさまざまな年齢層の方に召し上がっていただきたいと思っております。