4代目社長・父と女将である母からは「自分の好きな道を歩め」と言われて育ちましたが、両親の働く姿を見て育ったからでしょうか、ふと気が付くと「躍金楼(てっきんろう)」を継ぐことを心に決めていました。ですから、大学入学の際にもお店の経営に学業を活かすことができるようにと考え、経済学部を選びました。
大学卒業後、京都「西陣魚新」の調理場で3年間修業を行い、次に加賀料理の「加賀屋」東京有明店の調理場・ホールなどを1年間勤め、平成9(1997)年に店に戻りました。雑用から始め、調理場で徐々に仕事を覚え、毎日父自らカウンターで料理をお出しする「すたんど割烹」で、父と共にお客様との会話を楽しみながら仕事をしました。2年前からは再び調理場に戻り、板長のアドバイスを受けながら更なる修業に励んでいます。まだ見習い中の身ではありますが、父と板長の支えにより、いろいろなことに自由に挑戦できると思っています。
明治6(1873)年創業、130年を超える歴史がある当店ですが、私個人としてはその伝統にのみ囚われていくべきではないと考えています。もちろん、日本料理の枠組みを壊すのではなく、江戸の味を受け継ぎながらも、時代のニーズ・お客様の求める味を鑑みるべきだと思うのです。ですから当店では、一般的に言われる関東の濃い味とは異なり、少々塩分を抑え、どこか懐かしいような、ほっとする味を皆様に提供しています。
店是や家訓というものはありませんが、女将が口癖のように「お店はお客様からの預かりもの」と言う言葉は、私の中で重要な教えとなっています。第2次世界大戦の戦禍により一時的に営業停止せざるを得ない時期もありましたが、古くからのお客様のご尽力によって再開することができたと聞いております。親子3代に渡ってご来店下さるお客様や、3代目・祖父、4代目・父、そして私と、当店の親子3代の顔を全てご存じの方もいらっしゃいます。そのような常連の方々には教えて頂くことも多々あり、非常に有り難く思っています。私どもにとって一番大切なのは、お客様にご自分の家だと思ってくつろいで頂くことです。おもてなしする女将や仲居たちを補佐することが、間接的ではありますがお客様を大切にすることであり、自分に与えられた大事な役目であると考えています。
温故知新という言葉もありますが、「ふるきをたずねて新しきを知る」という姿勢で、皆で相談しながら切り盛りし、常にお客様が主役の店であり続けたいと思います。一度ご来店下さった方が「友人を連れて行きたい」と思い、新たなお客様をお連れ下さることが最良の宣伝ではないかと思っています。