話しの内容はその時々で少しずつ脚色され違っています。そこで「本当のことはどうなのか」という疑問が湧き、「きちんとした正しい歴史を知りたい」と、20代終わりの頃から、国会図書館や日比谷図書館などに通い始め、江戸時代からの資料を探しては読み漁るようになりました。近年の江戸ブームでもありませんし、資料も市井の研究グループもなかった時代でした。「お仕事は何ですか?」と聞かれたり、物好きがられたこともありました。
 日本橋人形町界隈は江戸の商業の中心でしたから、江戸の歴史、庶民の暮らしや文化を知ることは、必然的に自身の生まれ育った地域の歴史や文化を知ることでした。勉強すればするほど、奥が深く、面白さは増してきました。江戸の260年は、その時代時代でいろいろありましたが、庶民が生き生きと活動し、面白いこと楽しいことを追求し、独特の庶民文化をつくりあげた、泰平の世だったと言えるでしょう。そこで培われた心意気は、現在は失われつつあるわれわれ下町の心のルーツなのかもしれません。下町のお年寄りたちの話が、私の江戸歴史文化への興味を喚起し、育んでくれたのだと思っています。


 昭和56年に、NHKラジオの「人生読本」という番組に推薦されて出演しました。それがきっかけとなり、あちこちから声がかかり、地域の歴史や文化について話をするようになりました。地元の企業、ロータリークラブ、小・中学校の先生方の研修会、PTAの家庭教育学級や小学校など、数え切れない回数になりました。
 とくに日本橋、有馬、久松小学校では、私自身も楽しくお話させてもらいました。小学校の3、4年生では、「地域理解教室」という授業があり、グループで地域のお店などを実際に訪れ、お店の成り立ちの話を聞いたり、仕事に見て触れる学習をしているようです。私はそのまとめで歴史のお話をする。「おじさんの話は、学校の先生の授業とは違うので、落語や講談を聞くような気持ちで楽しく聞いてください」と言って始めます。

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                                                          2003年12月掲載記事
                                                ※内容は、掲載当時のものとなります