クロ、ミナミ、メバチ、キハダ、シロカジキ、メカジキ、マカジキ、クロカジキ、ビンナガ、バショウ、これらはすべて鮪の一種です。遠洋性回遊魚である鮪を捕るために、日本の漁船は世界中に出かけています。 関東で刺身と言えば鮪。中でも上等のトロが珍重され、山奥の温泉宿でも鮪の刺身が出ることが多いのは、一番良い刺身でもてなそうと言う姿勢があるからでしょう。しかし、鮪が王様となったのは実は戦後のことで、かつてトロが猫跨ぎと言われていたこともありました。猫跨ぎとは需要が無くて大量に道ばたにあり、魚好きの猫も食べ飽きてしまって見向きもしないという事です。 何故、鮪が水産物の王様になったかはいろいろな見解があり、冷凍技術の発達と交通の発達は確かな要因と言えます。 元来、回遊性の魚は傷みが激しく、鮪の巨体は冷凍技術が重要なカギを握っていました。昭和31(1956)年には築地に入ってくる魚の70%近くが貨車で、トラックは20%でした。それが現在ではほとんど100%近くがトラックに代わり、完全に冷凍され、漁港から直接運び込まれるにつれ、鮪の消費は加速されていきました。寿司屋で「鮪の良いものを入れないと商売にならない」と言うほどあって、刺身や握り寿司は言うに及ばず、ビジネス街の昼の定番メニューの鉄火丼、ヅケ丼、中落ち丼、ねぎトロ丼なども根強い人気があります。 鮪に限らずに私たち日本人は魚食の食文化を持っています。どんなに生活が変貌し、健康食品や栄養サプリメントが発達しても、魚の匂い、歯ごたえ、味と形を楽しむ食文化は永遠になくなることはないでしょう。 世界一とさえ言われる大市場である築地。築地ブランドが支えているのは、取り扱われる魚の価格や価値だけではなく、我々の食生活への心構えなのかも知れません。