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伝統的食文化の行方を、築地魚河岸の現場からお伝えします 魚河岸発!
秋になったら魚をガツガツ食おう!

 秋だね、まさに秋本番だよ! 天高く馬肥ゆるなんぞというけど、魚だって風のいいやつがいっぺえ出てくる。ウダウダ言わず、デブロクでも何でも構わねえから腹ン中おさめたモン勝ちサ。まったくイイ季節なんだが、魚河岸じゃあ近頃からっきし芸者の頭ときてる。夜明けのガス灯みたいな顔した連中が集まってこれからバサラ組合の総会だ。こちとらバサラ組合長ときてるよ。五月にゃ鯉の吹流しだが、秋風吹けばまるで便所の100ワットてなもんで、カラ元気の中身なしってワケだあな……


ひとひと、ふたふた

 のっけからわけの分からないことを申し上げましたが、たいした意味はございません。魚河岸というところは独特の言い回しがたくさんございまして、端で聞いても何を言ってるんだかいっこうに分からないということになっております。本当に大した意味はないので聞き流せばそれまでのことでございますが、グロバールスタンダートだのITだのと言われて久しい昨今におきましては、魚河岸のような閉鎖空間における情報伝達術というのも馬鹿馬鹿しくて面白えや、てなわけで、今も残る古風な言葉――とくに商売上の変わった符牒なんてものを、今回はご紹介してみようかな、と思います。

 「〜♪ひとひとお、ふたふたあ……」

 何やら楽しげに鼻歌を唄っている人が河岸にはいますな。この人は魚を数えているんですね。独特の節回しをつけて唄うように数えるのが魚河岸特有なんです。

  ひとひと(一・一)  
  ふたふた(二・二)  
  みっちょうや(三)  
  よっちょうや(四)  
  いっちょうや(五)  
  むっちょうや(六)  
  なんなんや(七)  
  やっちょうや(八)  
  きゅうちょうや(九)  
  とうよとな (十)

 こんなふうに言ってるんですね。こう、調子良く数えるとなんとなく魚の活きが良く見えてくるから不思議なものです。商売に活気が出てきますね。時には一、ニ匹ごまかしちゃっても誰も分からない。「サバを読む」なんて言葉は、季節になるとサバがどっと市場に揚がるんですけど、こいつを「ひとひと、ふたふた……」と数えていって、途中で面倒くさいからゴマかした、なんてところから生まれたんですね。とにかくリズミカルに数える。新人さんは「そんな数え方じゃ、魚が腐っちまうよ」なんて叱られながら数え唄を習得したそうです。

魚河岸流数え方

 河岸には大小さまざまの魚が並びます。商いの形態も魚種によっていろいろですが、キロでいくら、何ケースでどうだ、と数字がひっきりなしに飛び交います。それをいちいち「ごひゃくはちじゅうえ〜ん」なんて言っていた日には、リズムも悪くなりますし、言いちがい、聞きちがいなんて事が起こります。そんなことから魚河岸では昔から数を表す符牒がたくさんございました。その代表的なものを見てみますと、こんなものがありました。

  ピン(一)  
  リャンコ(二)  
  ゲタ(三)  
  ダリ(四)  
  メノジ(五)  
  ロンジ(六)  
  セーナン(七)  
  バンド(八)  
  キワ(九)

 「ピンマル」といったら千円とか一万円という意味です。でも最近は「ゲタ」とか「バンド」とかあまり使わないかな。ふつうに「サン・パチ」とか言うし、ちょっと古い言い回しだったりもします。
 それから、下に五がつくときには次のように言ったらしいですけど、これも最近はあまり使いません。

  ピンガレン(十五)  
  オツモ(二十五)  
  ゲタメ(三十五)  
  ダリガレン(四十五)  
  メナラ(五十五)  
  ロンジガレン(六十五)  
  セーナンガレン(七十五)  
  バンガレン(八十五)  
  キワガレン(九十五)

 また、さらになじみがないですけど、こんな風に漢数字の形をあらわして言う場合もあります。  

  ヒヨコ(一)  
  リヨコ(二)  
  カワヨコ(三)  
  ツキヨコ(四)

 それぞれ、人差し指、カタカナの「リ」、漢字の「川」、「月」を横にした形からきています。  

  マンボウ(五)万の下に棒を引いた形。  
  テンボウイ(六)点に棒を引いて、ひらがなの「い」。  
  トウマガリ(七)十が曲がった形。  
  ニラミアイ(八)左右がにらみ合った形。  
  ガンテンナシ(九)丸の点なし。

ヒミツの内符牒

 以上は「通り符牒」として魚河岸全体で通用するものですが、その他に各店独自の内符牒ってやつもあります。
  その代表的なものが「あきないのしやわせ」(商いの幸せ)。
  これですべての金額を表すことができます。どうするのかというと、

 「ア・キ・ナ・イ・ノ・シ・ヤ・ワ・セ」を  
 「1・2・3・4・5・6・7・8・9」と数字をふっていくんですね。

 たとえば2500円なら「キノ」ですし、4800円なら「イワ」となります。  
 なぜこんな符牒が必要になるのかといいますと、築地にはいろんなお客さんがひっきりなしに出入りしているわけでございます。中にはお得意さんもいれば始めてのお客さんもいます。今ここに二人のお客さんが同時に同じような商材を買い求めたとする。その時にストレートにいくらというとカドが立つことがあるんですな。同じ値段なら良いですけど、お得意さんにはちょいと勉強するなんてこともあるでしょ。  
  そこで、お客さんには分からないように、お帳場さんに向かって「はい、キノ〜」、「あいよ、イワ!」なんて言うわけですね。  
  こんな符牒はほかにも、   

  た・か・ら・ぶ・ね・い・り・こ・む (宝船入り込む)   
  い・つ・ま・で・も・か・わ・ら・ず (いつまでも変わらず)   
  し・ろ・は・ま・の・あ・さ・ぎ・り (白浜の朝霧)   
  あ・さ・お・き・ふ・く・の・か・み (朝起き福の神)  

 なんて縁起の良さそうなのがあって、お店ごとにそれぞれ違うものを使っております。まあ、ガサツな魚河岸の日常にあって、ほのぼのとした洒落た言い回しでございますな。

 

生田與克―いくたよしかつ
1962年東京月島に生れる。
築地マグロ仲卸「鈴与」の三代目として築地市場で水産物を扱うなかで自然の恵みの尊さ、日本特有の魚食文化の奥深さを学ぶ。
現在、講演会などを通じて魚食の普及に努めるほか、ホームページ「魚河岸野郎」を開設。魚河岸の歴史と食文化を伝える“語り部”として精力的に活動している。

「築地の魚河岸野郎」
http://www.uogashiyarou.co.jp/


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2006年9月掲載記事  
※内容は、掲載当時のものとなります  

 

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