東京中央ネットロゴ NPO(特定非営利活動)法人東京中央ネット 東京中央ネットは中央区のポータルサイトです。
東京中央ビジネスナビ参加企業について
検索する
サイトマップ お問い合わせ
HOME > 観光 > 魚河岸発!
伝統的食文化の行方を、築地魚河岸の現場からお伝えします 魚河岸発!
タコの誤解

 以前にデパートの催事場でタコを売ったんです。久里浜で獲れた近海物の上等なやつでね、見るからにうまそう!
 自信もありましたけど、思った以上に評判も良くて、すぐに完売でした。ところが二件ほどクレームがありまして、どちらも「私は大のタコ好きなんだけど」というお客様「こんな硬いの食べたことない、おいしくないじゃない!」とおっしゃるんですね。それは申しわけございません、とすぐに返金して、わきからアフリカ産のよくあるやつを出してきて差し上げました。すると後日「後からもらった方はやわらかくておいしかったわ!」とおほめの言葉に預かったわけです。国産のタコは歯ごたえを味わったりするものなのにな・・・・・・
 という前フリを、まずはしておき、さて、今回はのお題はタコ。我々はタコについて実はほとんど何も理解していない。我々の方こそタコ知識だった、というお話です。

“タコはバカではない”

 タコというのは何しろ誤解されやすい生物です。
 西洋人と来た日には「海の悪魔」なんぞと忌み嫌い絶対に食べないというんだから、これがまず誤解。こんなにうまいものを見た目が悪いばかりに実におしいことですわ。いや、食わないヤツらは放っておきましょう。好きな者だけで食っちゃえばいいってこと、ね。
 それに比べ我ら日本人はタコのおいしさを知っていますな。が、いつも食べているからといって、それでタコのすべてを知りつくしていると思ったら、これが大マチガイ。多くの人がずいぶんとかれらを誤解しているようです。
 「お前、タコじゃないの」などと、人を小バカにするときに言いますけど、そんなことはタコに大変に失礼です。本当のところ、タコはバカではないんですな。たとえば、じぃっと岩の陰にかくれていて、二枚貝が殻をちょっとでも開けると、間髪を入れずに殻の間に石を挟み入れるなどというスゴイ特技も持っていたりします。実に頭が良くて用心深いのがタコの本質。それをバカにするなぞ、そいつこそおろか者というべきです。
 タコというものは、あのとおりむき出しの身体だから、タイのような鋭い歯にやられたらひとたまりもござんせん。そのために夜までじっと岩間にひそみ、夜陰に乗じて小魚などを獲るという頭脳的プレーをするような習性になったのだ、とものの本に書いてありました。だから蛸壺漁などというものは、この用心深さを逆利用したもので、蛸壺を見つけたタコが「こりゃ良い隠れ家だわい」とばかり石を抱えて入り込み、そいつでフタまでしてしまうというから、やはりタコはバカかもしれません。

“タコに足はない”

 タコ足なんぞといいますが、タコの持ってる八本のやつ、あれは実は全部腕なんですよ。足じゃないんですね。タコには足がない、というわけで私たちはどうもタコのことをひどく誤解しているようです。タコの頭、と思ってる部分。実は胴体だったりします。あのてっぺんに肛門もあるんですよ。それじゃ頭はどこからというと眼のあたりがそうらしいんですな。そこに脳みそもあります。いっそ腕を全部切り取って、ひっくり返してみると、身体の各部の位置がなんとなくお分かりになるんじゃないでしょうかね。だからタコ足じゃなくタコ腕。タコの鉢巻なんて本当は腹巻ということになります。
 それから、このぐにゃぐにゃした御仁は、実は貝の仲間なんですね。ただ貝殻に入ってないだけ。貝もタコももとは同じく軟体動物に分類されてます。

“血だらけのタコ”

 生き物というものはケガをすると血が出ます。魚だって包丁で切れば真っ赤な血がほとばしるんですが、ところがタコというヤツは血を流しているのを見たことがありません。生きているタコをスパッと切っても血のようなものは出ない。ううむ、変ですね。生物たるもの血液なしには生命の維持ができないはずだ。たしか理科の時間にそう習ったぞ。
 「ナニ言ってんでえ! タコが血ィ出すわけネエじゃねえか! だってアレだろ? タコってホレ、軟体だから・・・」
 魚屋でさえそんなたわけたことをもうします。
 実はタコにも立派に血が流れているのだ。そもそも血が赤く見えるというのは血液のヘモグロビンに鉄分が含まれるからで、動物も魚もみんな赤い血が流れております。ところが血液中に鉄分を持たず、銅と化合したヘモシアニンというものが流れているタコの血は、赤ではなく、ちょっと青みがかっておりまして、ちょうど空色といった感じです。それで可視光線のもとでは、人間の目には何も映らないと、こういうわけですね。
 よくタコの足、いえ、腕を切っちゃ食い、切っちゃ食いしてるタコ好きの人がいますけど、ほんとはアレって血だらけのやつをクッチャクッチャやっているわけで、ホントは口のまわり、血だらけです。

“タコの気持ちは色でわかる”

 タコの微妙な気持ちがその色で分かるようになればもう一人前だ、などといわれますが、誰がいったのかは知りません。ただ、確かにタコは精神状態によって色を変えるものらしいですな。
 普段かれらはノラリクラリと海底を散歩しております。このときたいてい薄茶色しておりまして、実にリラックスした良い精神状態といえましょう。ところが前方に天敵のウツボなんぞ発見すれば、その顔色はみるみる赤くなってまいります。
 うおーっ、こりゃ大変だぁぁぁぁ! と、すっかり気が動転している状態ですね。すぐさまケツまくって、といってもどうやってまくるか分かりませんが、キアイを入れて呼吸孔から海水を噴射して逃げ出します。そして首尾よく逃げおおしたと、ホッとしたときのヤツの顔は灰色になっているんですね。
 タコは目から刺激を受けると、それが脳に伝わりさまざまに体色を変化させる特技を持つそうなんです。大好物のエサを見つけたときには、瞬時に周囲の風景に同化するように体色を変化させて、敵の目をゴマかして、やすやすと欲しいものを手に入れるという寸法ですな。
 では、エッチのときにはどんな色になるのか、などとつぶさに観察した者がいるそうです。世の中には物好きな人がいまして驚きですが、アタクシじゃございませんよ。その人によればあの時のタコの色に「変化なし」ということです。なあんだ。
 でも、「色は変化しないけど、眼がトロンとする」そうです。。

 

生田與克―いくたよしかつ
1962年東京月島に生れる。
築地マグロ仲卸「鈴与」の三代目として築地市場で水産物を扱うなかで自然の恵みの尊さ、日本特有の魚食文化の奥深さを学ぶ。
現在、講演会などを通じて魚食の普及に努めるほか、ホームページ「魚河岸野郎」を開設。魚河岸の歴史と食文化を伝える“語り部”として精力的に活動している。

「築地の魚河岸野郎」
http://www.uogashiyarou.co.jp/


バックナンバーはこちら

お問合わせ
生田さんや「魚河岸発!」についてのご意見・お問合せはこちらまで。
info@tokyochuo.net

2006年6月掲載記事  
※内容は、掲載当時のものとなります  

 

copyright2004 Tokyochuo.net All Rights Reserved.
東京中央ネットについて 東京中央ビジネスナビについて このサイトについて プライバシーポリシー