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伝統的食文化の行方を、築地魚河岸の現場からお伝えします 魚河岸発!
お魚、春の眠り

ふあああああ。
と、のっけからアクビをタイピングするのも、いつも通りのわざとらしさですが、それにしても眠うございます。春眠暁を覚えずとは古人はよく言ったもので、陽気がポッカポッカしてまいりますと、自然まぶたが重くなってまいります。売れ口の悪い河岸ならではのどんよりとした空気の重みが、ちょうどおフトンのようにすっぽりと身体を包みこむと、いつしかアタクシを眠りへと誘います。夢の世界では魚屋らしく竜宮城が出てまいりました。そこではタイやヒラメの舞い踊り、と思いきや、陽気が良いので、みんなして寝ているじゃござんせんか。春は魚もやっぱり眠いんですな。そんなわけで、今回は白昼夢の竜宮城から、お魚たちがどんなふうに眠るのか、などと寝ぼけたことをお伝えしようと思います。

“まぶたはないけど魚は眠る”

 お魚にはまぶたがありません。だからかれらは眠らないんじゃないかと思う人もおりますが、そんなことありません。魚も眠ります。眼を開けたままね。
 そもそもまぶたというのは何のためにあるかというと、哺乳動物が涙を流したり、まばたきをして角膜に水分を与えて眼を保護するという役割だそうですな。でも、お魚たちは水中にいて、いつも角膜が水に接しているから、そんなものは必要ないってわけなんです。アタクシの友人に眼を開けたまま眠る男がいますが、かれなどはむしろ魚類であって、本来は水中で眠るのに適しているのでしょう。生物の個体差というものでしょうな。
 さて、それではすべての魚にまぶたがないかというとそうでもなくて、フグ類はまぶたを持っていて、ちゃんとまばたきします。人間みたいにパチパチすばやく閉じることは出来ないんですがね。非常にゆっくりと閉じます。
 また、まぶたではないけれど、脂質眼瞼(ししつがんけん)といって季節によって眼が白濁して見えなくなってしまう魚がいます冬場のボラやマイワシなどがそうで、釣り人からは盲目ボラなどといわれていますな。

“眠ったまま泳ぐマグロ”

 魚はまぶたがないから眼を開いたまま眠るわけですが、そのスタイルは魚によってさまざまです。
 たとえば大群で回遊している魚は止まることができません。どうするかというと、何と泳ぎながら眠るんですな。ただしグループ全体が一斉に眠るわけにいかないので交替で代わるがわるオヤスミをとるのだそうです。かれらは集団で移動している間はひとつの物体と化しているので、眠っていても自然といっしょに運ばれていきます。
 そんなお魚の代表がマグロ。つねにグループを意識しつつ回遊しています。極端に数が減ってしまったり、あるいは自分だけはぐれてしまったりすると、眠ることができなくなり、どんどんストレスがたまってきます。そして最後にはストレス死してしまうんです。
 本当でしょうかね。誰がそれを見たのでしょうか。しかし、それを追求するとこの先のお話が続かなくなるので無視することにいたしまして、さて、そんなふうにストレスを感じてしまったマグロを食べるとどんな味がするかというと、これが酸っぱいんですね。
 よく市場に揚がったマグロで、まるまると太って脂も乗っている。こいつはイイぞと思っていると、あにはからんや、食べたら酸っぱくておいしくない、なんてことがままあります。ストレスによってマグロのPH値があがって酸味を強くなってしまったんですね。仲間からはぐれた「さすらいのマグロ」なのでしょうか。自由に泳ぎまわっているように見える魚ですが、生きていくのはなかなかきびしいものでございます。
 ほかにも集団で行動し交替で眠る魚にはイワシ、サバ、アジ、サンマなどがいます。どれも多穫性魚類なんですね。

“夜は早く寝て、朝は早く起きる”

 魚のなかには昼と夜の区別で眠るものもいます。
 ウナギ、アナゴ、ウツボ、ヒラメ、カレイなどは夜行性の魚で、「夜はオイラの時間さ」とばかり毎晩エサを求めて夜遊びをくり返します。でも、お日様が顔を出したとたん、「こいつあイカン!」お天道様に顔向けが出来ない夜遊び派は、とたんにのびてグウグウ寝てしまいます。
 これと逆に早寝早起きの真面目な魚がコイ、フナ、マス、ベラ、シロギス、ハタハタなどの昼型魚類。身体にタイムカードを持っているかのように、きっかり日の出から日没までの活動で、夜はぐっすり眠ります。なかでもベラやシロギスなんてトボケタやつで、日が暮れると砂にもぐって、ちょうどフトンでもかけるように眼と口だけ出して「おやすみなさい」しちゃいます。
 このように朝と夜のはっきりしているのは単独行動型の魚類の特徴なんですね。
一方、眠り始めると一日ですまず何ヶ月にわたるものもおります。冬眠ですな。
フナ、コイ、ドジョウ、ウナギなどは毎日眠る以外にも水温が下がると冬眠に入ります。淡水魚のなかまによく見られるもので、河川や沼沢地以外の広い海域に住むものは冬眠のかわりに移動することで越冬します。
一方、アナバス、ハイギョ、イカナゴなどは逆に水温が上がるのを嫌がるために、越夏するといいます。

“パジャマに着替えて寝る魚”

 数多い魚のなかでもアオブダイというのは実におどろくべき眠り方をします。何と寝る前に着替えて寝るんです。
 この魚は南の暖かい海に住んでいてサンゴ礁などバリバリかじる変わったやつなんですが、なんといっても変っているのは、その寝姿。単独型特有で日が暮れると「さあもう寝べえか」とばかり睡眠体勢に入るのですが、この際、口から粘性の強い粘液を出すんですね。「〜♪ネバネバネバ・・・」と自作曲を歌いながら自分自身を覆ってしまいます。これがちょうどパジャマを着たようになるんですな。「何より安眠が一番だねえ」そう言うと、岩陰にかくれて一晩の憩いを過ごします。
 これを毎晩くりかえすというのですから、いちばん睡眠を大切にする魚ということにしても良いでしょうね。

 

 

生田與克―いくたよしかつ
1962年東京月島に生れる。
築地マグロ仲卸「鈴与」の三代目として築地市場で水産物を扱うなかで自然の恵みの尊さ、日本特有の魚食文化の奥深さを学ぶ。
現在、講演会などを通じて魚食の普及に努めるほか、ホームページ「魚河岸野郎」を開設。魚河岸の歴史と食文化を伝える“語り部”として精力的に活動している。

「築地の魚河岸野郎」
http://www.uogashiyarou.co.jp/


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2006年4月掲載記事  
※内容は、掲載当時のものとなります  

 

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