この数年、名橋・日本橋の頭上を通る高速道路を撤去する運動が注目を集めている。地元のこの強い要望はついに国をも動かそうとしている。実はアメリカの古都・ボストン市では高架高速道路の地下化が具体化している。そこで立石都議の主宰する「アジア太平洋経済研究会」は10月、現地を視察した。ボストンは国際マラソンで知られるが、米国で最も古い都市で欧州なみの古い建物も多く、道路には石だたみが敷かれ大学も集中している美しくて活気のある町だ。そこの中心街は古い高速道路が川の上を通っていて、街は完全に分断されていた。それを撤去して大半を地下に埋め、ボストン湾を地下で横断し、ローガン国際空港と結んだ。空港への地下道は開通していて、視察団はそこをバスで通過した。片側四車線と広々していて快適さを十分に堪能できた。埋立て工事には日本の技術力も活用された。プロジェクトに協力した技術者の紹介で、サンフランシスコから社員が駆けつけ現地で経過と実情を説明してくれた。この大事業はアメリカならではの実情による問題を生じたが、民意の反映や知恵には学ぶべきことも多かった。現地で知り得た情報をもとに事業の内容をまとめた。日本橋の夢が現実のものに進む一助になれば幸いです。
ビッグ ディグ
昨年4月の「ニューヨークタイムス」は次のように報じている。
ボストンでは「The Big Dig(大掘削)」と呼ばれる米国内でも最大規模の公共事業が具体化している。同事業は1950年代に造られた都心部を通過する高架式道路の替わりに新たな橋梁、道路トンネル(地下式道路)によって新幹線道路網を構築するもので、予算規模は毎年膨れあがり、現在総費用146億ドルもの道路整備事業となっている。
Big Digとは「大きく・掘る」という意味で、ボストン市内の二つのインターステートハイウェイ(州間高速道路)の地下事業の通称である。これは既存の高架構造ハイウェイを地下化するという米国でも例をみない大事業で、プロジェクトの総延長は12・5キロ。1991年に工事が着工し、来年2005年には全ての工事が完了する予定という。実に14年もの歳月をかけての大事業だ。
ボストン市の中心を通っていた高架の高速道路は地下化すると同時に、6車線(片側3車線)であったものが、8〜10車線に拡幅され、交通容量は2倍、地上は約60ヘクタールの新規の公園やオープンスペースに代わろうとしている。
事業費が6倍に
Big Digプロジェクトはその事業の規模もさることながら、事業費が当初の見積もりを大きく上回ったことでも知られる。当初の予定していた26億ドル(約2800億円)の六倍近い146億(約1兆6000億)に増えた。建設費の約5割は連邦の補助金である。
着工してから建設費が6倍に膨らむことなど天変地異を被らないかぎり日本では考えられない。視察団にプロジェクトの経過を説明した日本企業の社員は「アメリカでは走りながら考えることは当然なのだ」と言い切る。
ではなぜ事業費が急増したかというと、「ほとんどの工区で正確な測量図や設備配置配管図、既存建築物のしゅん工図などがそろわず、手探りで慎重に進めていかなければならなかった。そのため、人手のかかる工法に頼ることが多く、問題が起こる都度、新しい工法や新工法の採用が必要になった」と言う。これは日本のように行政とゼネコンが密接な関わりをもたない米国の実情にもよる。
さらに、着工当時のマサチューセッツ州は政府の承認が得にくいと判断して実態より低目の見積もりをしたことも建設費が急増した原因とされているが、これは事業費の厳密な監査体制が確立していなかったため。そこで2000年に連邦政府は監査体制を強化することになり、このため州は徹底的な情報公開と市民参加へと方針を転換した。その結果、この2年間、事業の増額はなくなった。その代り、事業に批判的だった市民が高架道路が撤去されたのち、跡地の活用をめぐって激しい論議を展開するようになった。
民意反映の保障も
今回の工事で新しく生じた土地は1万5千平方メートルで、そのうち1万平方メートルが「ローズ・ケネディ・グリーンウェー」と総称される公園になる。これまで高速道で分断されていたオフィス街とウォーターフロント地区が交わることが可能になるため新しい空間への関心は高い。
計画は市民参加で進行中。地区計画に市民の意思を反映するために会議は毎月開かれている。さらに市民側には州議会から一定の予算が割り当てられているので独自に都市計画などの専門家を雇うことができ、そのことにより計画の変更を議会に働きかけることのできるシステムがきちんとしている。
市民団体のアーテリー・ビジネス・コミッティ(略称・ABC)はビッグ・ディグの計画当初の1987年に結成された非営利の連合体。周辺地区の民間企業や市民の意見をすくい上げ、利益を調整する仕事をする。民間の意見を代表して、再開発に必要な資金の調達や政府関連機関への働きかけもする。連邦政府からの補助金をプールして管理する能力も有する。活動資金は民間企業が出資している。
こうした組織は政治的な色や企業色がつきやすいが、ABCはプロジェクト推進の潤滑油の効果をあげている、と評価が高い。
こうした市民参加は合意形成に時間がかかり、設計時間を長引かせる一因になっている。このため公園の着工が本格化するのは2006年の見込みともいわれ出した。
換気塔がビル内に
高架道の地下化によって新たに七つの換気塔がお目見えする。東京駅南側の鍛冶橋通りに面した巨大な建物のようなものが新しい空間に七つも現れる。ところがボストン市では、たとえばフォート・ポイント運河の近くに立つ換気塔は現在、コンクリートむき出しの巨大な造形物をさらけ出しているが、建設予定のホテルと一体化させることになる。
またトンネル工事によって発生した残土の処理場はボストンの沖合いに新しいスペクタクル島という臨海公園に生れ代った。神戸市の「山は動く」のボストン版だ。
高速の役割も変更
ボストン湾を横断するトンネルが開通し、道路も延長することによって、ボストン都心部を通り抜けるのに20分から45分を要していたのが現在は2分で通り抜けることができるようになったこのように冒頭に掲げたニューヨークタイムスは伝える。
だが同紙は、「こと道路事情に関しては、これまでの常識が全く通じなくなっている」と指摘する。それは何10年と慣れ親しんできた道路の出入口が閉鎖されたり、思いもしない新たな出入口に替っていたり、さらに標識による混乱も生じているという。
出入口を24ヶ所から14ヶ所に減少させた理由について同紙は事業を管轄するマサチューセッツ州高速公団の分析を「ボストンの都心部に向かう交通が目的ではなく、多くは都心部を通過している」と紹介している。
Big Dig事業は高速道の役割をも変更させているというのだ。
立石晴康都議談 アメリカ東部の古都ボストン市の高架道路の改築は、ビッグ・ディグ(大きな穴堀り・地下化)の愛称で親しまれていました。私が四年前に訪れたときはまだ工事中だった街と見比べて、その様変りに驚き、渋滞の解消、街並の復活に感心しました。同時に我が東京の中心・名橋日本橋の参考になると、意を強くしました。
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