ここ数年、日本の犯罪は件数が増えるとともに凶悪さの度を高めている。自らを守る精神にもとづいて防犯カメラの設置に助成を盛りこんだ初の安全安全条例が開会中の定例区議会に上程された。その一方、子どもをめぐる環境も大きく変化してきた。狂気と化した大人が小学校で次々と児童をあやめたり、つい最近は同級生を女児がカッターナイフで切りつけ命をおとすという、考えられない事件が発生した。さらに小学生の五割近くが天動説を信じているデータも発表された。教育現場に子どもをまかせられない思いが親や地域に増えている。区は児童館の建設が困難な晴海の月三小や豊海小に地域の協力を得て放課後の「居場所づくり」を始めることになった。空き教室などを利用するもので今後の動向が注目されている。このような子どもをめぐる問題が区議会一般質問でもとりあげられたので、それぞれの課題について議員と区のやりとりをまとめた。
新たに「居場所づくり」も
学力の低下が心配
「子どもの学力」について自民党の鈴木久雄議員が言及した。ゆとり教育を実現する目的で学校5日制が実施されると同時に、学習内容が従前より三割も削減された。その結果が今年実施した区政世論調査に出ていると紹介。それによると週5日制を「良くなかった」と答えた人が29.1%と3割近くで、その理由の六割は「授業時間が減って学力が低下した」だった。果たして区にはわずか2年で学習指導要領の一部改正にふみ切った。そこでまず鈴木議員は「このような状況にどのような認識をもっているのかと」質した。
教育長は世論調査については「学力低下に不安を持っていることが明らかになった」、文科省の改正で「学力向上の効果が期待できる」との認識を示して本区の取り組み状況を説明。また土曜日や放課後の活用に取り組む方向性を明らかにした。
居場所づくり議論
区は9月に月三小と豊海小の空き教室や土曜、夏休みに子どもに場を提供する、居場所づくりを提案した。
共産党の小栗智恵子議員は「このことが学童クラブを将来的に廃止していく方向であるなら問題だ。居場所づくりは安全な遊び場の提供で、保育する学童クラブとは目的と役割が違う」として区の見解をただした。区長は専門の指導員(教免資格者)に加えて地域のサポートで運営していく方向を示すとともに、児童館での学童クラブは「継続すべき事業」の考えを示した。
中央区民クラブの渡部博年議員は、居場所づくりを他の学校へ広げていくかと質問。今回の措置が地域に学童クラブがなく空き教室と地域の支えが可能になって実現したもので、区長は「条件や緊急性によって順次拡大していく」との方向性を示した。
女児殺害の原因は
長崎県佐世保市で小学校六年の女子が友達をカッターナイフで殺害した事件を「私の内では未だ整理のついていない事件」としたうえで、グループ未来の青木幸子議員が、殺害の動機がインターネットの落書きにあったことに注目して、架空の世界にさ迷う子供を「日本語で深く考え表現できる子供を育てようという世田谷区の日本語特区構想」を示して区の考えを資した。
教育長は情報モラルなどについて各学校で取り組んでいるとしたうえで、世田谷区は国語の時間を増やして哲学、表現の教科を新設していると紹介して、「本区の朝読書やボランティアの読み聞かせなどをさらに充実して、基本である国語授業を充実していきたい」と答えた。
不登校児への対応
不登校の問題を「能力主義や競争・管理の教育そのものが問われている」という立場から共産の小票議員が質問。不登校の子どもへの対応は、学校への復帰を第一としないで「子供たちの心のエネルギーが回復するまで<安心して不登校できる対応>など多様な対応をはかるべきだ」とし、区の見解を求めた。
教育長は、不登校の子どもたちに「わくわく21」の場を提供しており「学校復帰を期待しても一義的な目的とはしていない。心のエネルギーが十分に回復したときに登校させる」と答えた。
グループ未来の青木議員も不登校の問題をとりあげ、わくわく21がきちんと機能しているのか、カウンセリングの推移などを資した。教育長は、カウンセリングについて、平成15年度は中学で91件小学校1校当たり1か月平均35件で、不登校、友人関係、学習、進学が多いと説明した。
不耕栽培起を提案
公明党の中島賢治議員が、柏学園などに「不耕栽培起の田んぼ」を活用できないかと提案。自ら町田小の小学校を視察した内容にもとづいて、田んぼを耕さずに1年のうち10か月以上も水を張り有機肥料だけとすることで、プランクトンから小魚、カエルなどの生態系で土じょうが豊かになる「不耕栽培起」を説明して区の考えを求めた。
教育長は自然との共生で意義があるとしつつも、適地の確保や管理、成長観察などどうするか、「解決すべき課題が多い」と答えた。
いのちの教育授業
公明党の鈴木幸子議員は、札幌市近郊の助産師グループ「パルの会」が推しょうする「いのちの教育」を紹介。第一次成長期の始まる5年生に出産ビデオを見せながら2つの細胞が奇跡的に出会い1つの命の誕生へと至る感動を教えるというもの。命の重さや大切さが失われていく中で、生命の尊厳にふれる機会を特別授業として設定できないかと質問した。教育長は、今年度助産婦による、いのちの教育を予定している学校があるとして、自他の生命を大切にする心情が育つことを期待していると答えた。
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