少子高齢化が着実に進むなかで、いかにして活力ある福祉社会をつくり上げるべきでしょうか。この命題に対する糸口を探るべく、8月16日から23日まで郡山市長、厚木市長、静岡市長、裾野市長らとともに全国市長会の調査団として福祉先進国のフィンランド、スウェーデン、デンマーク三カ国を視察してまいりました。
視察した第一印象は、電線の完全地中化などインフラ整備を軸とする充実した社会資本の素晴らしさです。そうしたまちづくりの基盤に立って、懸命な熱意と努力のすえ花開いた見事な福祉施策の奥の深さと幅の広さへの感動。高齢者福祉はもとより子育て支援、教育、さらに病に倒れた時など、さまざまな面で手厚い制度が確立しているのには驚かされました。まさに、「揺りかごから墓場まで」の優れた実態がそこかしこで見てとれます。
福祉だけではありません。環境の分野も同様です。ごみ、土壌、大気、騒音、下水などの問題は当然のこととして、まちづくりに対しても水や緑、伝統文化を大切にする精神に圧倒されずにはおられません。
この心はどこから来るのでしょう。視察中いろいろ考えさせられました。基本的には命と自然を敬うという人間性でしょう。いま、自分と一緒に生きている者同士、そして自然や歴史、伝統の中から共通の価値を尊敬し合う。人としての愛、尊厳の精神が根底にあって、それを土台に歴史的年月をかけて今日の“福祉王国”を成熟させてきたにちがいありません。
私たちが視察したのはフィンランドのタンペレ市、スウェーデンのストックホルム市、デンマークのネストヴェズ市が中心です。
▽タンペレは首都ヘルシンキの北175キロメートルにある人口20万人の第3の都市。ここで注目されるのは市職員が人口の7.5%(本区=1.8%)にあたる1万5千人もおり、その36.7%の5千5百人もが社会福祉保健医療部門に携わるといった行き届きぶりです。高齢者への施設・在宅両面での対応や専門医療体制など、この部門の予算は全体の555%(本区=約40%)を占める5億1710万ユーロです。また医療機関にかかった患者の負担は20%のみとのこと。
▽ストックホルムは人口76万人の首都。在宅ケア、特別養護老人ホーム、グループホーム、医療センターなどにより充実した高齢者施策が展開されているのと同時に、子育て支援でも学ぶべき点が多々見られます。例えば、保育園は幼保一元化で、保護者から希望申し出後3カ月以内に入園させなければなりません。さらに育児休暇は480日間で、父親も60日は取ることになっており、その間の所得は80%保障されています。また、障害者については無い能力を引き出していくハビリテーリング制度によって、健常者と同様なサービスを受けられます。
▽ネストヴェズは首都コペンハーゲンから車で約1時間の人口4万8千人の都市。出産費をはじめ保育・教育関係が無料なのをはじめ育児休暇中は失業手当と同額が支給されるなど、何といっても子育て支援が際立っています。若い共働きの家庭が転入してきてくれるのが、まちの魅力につながると期待しています。こうした施策等により、かつて低下したデンマークの出生率は1.9程度まで回復しています。
このように優れた社会福祉施策ですが、問題は財源。この財源はどこからくるのでしょう。答えは税金です。平均年収が450万から500万円のコペンハーゲンでは市税20%、県税11%、国税20%の計51%がまず所得から引かれます。さらに消費税は25%。ストックホルムでも消費税は25%で、さらに市税(18.08%)県税(12.27%)の計30.35%や国税を含めると直接・間接で所得の約60%の負担ということです。フィンランドでは所得税が50%で、消費税は22%です。ただ、ここでは交通機関は8%、食料品は17%に抑えられています。こうした税の高さが「高福祉、高負担」といわれるゆえんです。それでも国民から強く支持されているのは「いくら税金が高くても不安なく生活できるようになっている」制度だからにほかなりません。無論、経費の上昇はどこでも大きな問題になっており、(1)施設介護から在宅サービスへの転換(2)予防措置の重視(3)ボランティアの活用など、新たな挑戦が続いています。そういう意味ではストックホルムの担当者の「施策はただ良否を評価するのでなく、アイデアが大事です。これからについては、政党間の考えもちがい混とんとしているが、ベストを尽くして長期展望のもとで実行していかねばなりません。権利だけを主張する人もいますが、それだけでなく義務も大切です」という言葉は大変含蓄に富んでいます。
福祉や環境に力を入れているから、他の面はおろそかになっているかというと、そうではありません。三カ国とも徴兵制をしき、陸・海・空の三軍を持つなど安全保障にも力を入れています。これもロシア、ドイツ、イギリス、フランスなど列強が近隣に存在する中で、歴史的教訓としての愛国心の表われなのでしょう。政治が清潔で透明性が高いのも共通しています。また、財政的にも権限的にも地方制度がしっかり確立している点は、私たちが大いに学ばねばならない魅力です。さらに「民主主義・連帯責任・機会均等の徹底」を政治原則とする理念も大いに共感したところです。非の打ち所がない「男女共同参画社会」はたいへんお手本になります。スウェーデンの50%など離婚率が高いのも、自分の生き方や身の処し方を決める権利は本人にあるという“自己決定権”にもとづく、自主・自立の精神によるものでしょう。
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