「史跡と歴史を訪ねて」のサブタイトルをもつ『中央区区内散歩』の第六集が発刊された。昭和63年から3年ごとに刊行されている。
前回に引き続き、江戸時代末期から様ざまの分野で活躍した人たちが紹介されている。これらは「区のおしらせ」に掲載されたもの。
第6集で注目されるのが、佃の海水館をめぐる著名な人たち。島崎藤村がこの旅館で小説「春」を書いたことをきっかけに小山内薫、吉井勇、三木露風ら文人の集まるサロンとして知られる。小川尚氏の海水館の絵も想像をかきたてる。また、永井荷風が中央区の町を好んでいつも歩いていたことを詳しくひもといていて、意外な発見もできる。そして写真師や洋裁師についても紹介されている。
著者は昭和8年生れの野口孝一氏。川崎房五郎氏を引き継いで、独自の歴史探索の道を切り開いている。既存の歴史をたどるだけではなく、各分野の地平を開いた人物の行跡をひもといて紹介し続けている。中央区の産みだした傑物史ともいえる仕事だ。「資料に意外に誤りが多く、その検証に苦心します」と言う野口氏の続けている仕事は、やはり多くの人びとに知ってほしい思いに支えられている。区役所(1階情報公開コーナー)で400円で売る。 |