A. 健康のためのエクササイズとしては、「ランニング、ジョギング」よりも「ウォーキング」が好ましい、と以前の質問(※当コラム2013年6月)でお答えしました。特にマラソンのように長時間も走るキツい有酸素運動をする時、私たちの体は呼吸で多くの酸素をとり込みます。その時に「活性酸素」というものが発生し、それが過剰になって身体を傷つけてしまう「酸化ストレス」と呼ばれる状態をつくります。強い紫外線を浴びたり、喫煙をしてもこの活性酸素が増えて酸化ストレスが増加し身体に悪いと言われてきました。何故ならこの酸化ストレスが生活習慣病やガンなどの病気の原因と考えられているからです。
では走る、ランニングという行為は良くないのでしょうか。
いいえ、メリットも多くあるのです。アンチエイジングと呼ばれる「抗加齢医学」の世界をリードする先生方の間でも、健康増進における有酸素運動としての長距離ランニングについての意見が分かれていて「マラソンは是か非か」という論争が以前からありました。このように、予防医学の権威とされるドクター達の間でさえ意見が分かれているのです。
走る・マラソン賛成派の意見は興味深く、色々なメリットが聞かれます。
そこで、今回は「走る」ことの心身への良い影響の部分を強調します。
まずは言わずと知れた、ダイエット効果。適度な速さでランニングを長時間続ければ、走る速さに関係なく、1km走るごとに体重1kmにつき1kcalが消費されます。つまり体重60kgの人が1km走ると60kcal、10km走れば600kcalの消費になります。体脂肪を1kg燃やすのに7000kcal必要ですから、もしも毎日10km走れば、1 か月で約2.5kg脂肪が落ちて体重が減ることになります。たった1ヶ月で。凄い!・・・こういうのは皮算用なのですけれども。
次に、メンタル面での良い影響について。ストレスがかかる生活が続くと、イライラや不安・緊張の状態にあります。普段から安静にしていても心拍数が乱れます。つまり脈が速く打つということです。普通の生活で速く脈が打たれることは不自然で、この状態でいると自律神経バランスが乱れてしまいます。しかしながら長距離ランニングを続ければ、次第に脈の乱れることが少なって、ゆっくり脈打つようになり、自律神経のバランスが整い精神面にも良いのです。
そして、「人間は走るために生まれた」説もあります。
ランナーならご存知―2010年のアメリカのベストセラー本「BORN TO RUN ― 走るために生まれた(日本語訳:NHK出版)」、この著者が唱える仮説が凄いです。一時は書店にも山積みにされていましたので、表紙くらいはご覧になった方もいらっしゃると思います。これを読むと走りたくなる、読んでいる最中に走りに行きたくなるとか、米国のランナー100万人に影響を与えた、と言われる傑作です。人間の進化の歴史に関わる「走るための」足の役割について、とても深く考察されています。
ここで本の内容について少しだけご紹介しましょう。
人類が弓矢を発明したのは2万年前。さらにさかのぼると、槍を発明したのが20万年前。では、その20万年前よりさらに前はどうやって狩りをしていたのか。それは「動物をひたすら何時間も走って追いかけて、その動物が疲れてダウンするまで走って追い詰めていた」ようです。獲物を追いかけ続けて「走り殺していた」というのです。これは「Persistence Hunting(持久狩猟)」と呼ばれるそうです。長距離を走ると人間はたくさんの汗をかいて体温を調節することができますが、動物はそれができない。例えばものすごいスピードで走るチーターでさえも、せいぜい速く走り続けられるのは数百メートルです。動物は、ずっと走り続けても体温調節ができないので、いずれ体温が上がり過ぎてダウンしてしまう。狙った獲物をダウンするまで数時間もひたすら追いかけまわし、捕まえて、食べる。私たちの祖先はそうやって生きていた。つまり走ることが生きることに直結していた時代があり、私たちの体は元々、長距離をランニングするように作られている、という様な内容です。
他にも、登場人物のキャラクターが際立っていて、読みごたえのある作品なのでおススメです。本屋まで走ってみますか。
生活習慣を改善するために、日常生活での運動の習慣化は容易ではありませんね。人の意志は弱くて、継続することはなかなか難しいです。そういうわけで、運動習慣のモチベーション維持のために、「走る」意欲をそそるような話をしてみました。
あくまでおススメするのは「ウォーキング」ですが、無理なく過激な長距離でなければ「走る」のも良いと思います。
膝や腰を痛めないように、ゆっくりと地道に頑張りましょう。
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◆※参考文献
森田敏宏ら:Anti-Aging Medicine. 2012; 8, 077-085.