A. 質問された方のように、もともと学生時代などから低血圧と言われてきた人や、健診で偶然、低血圧と判明した人のほとんどは、なんの症状も無い「無症候性低血圧」あるいは「本態性低血圧」と言われているものです。これは病気というよりも「体質的な症候」とされていて、治療の対象にはなりませんので気にしなくて良いでしょう。
「低血圧は、血圧を測定してどのくらいの値を言うのでしょうか」と聞かれますが、低血圧には具体的に定義された統一基準がありません。一般的には「収縮期血圧(上の血圧)」が100以下、「拡張期血圧(下の血圧)」が60以下とする報告が多いようです。そして、基礎疾患(持病)が無いのに、低血圧の場合は、何が原因でなっているのかは解明されていません。いくつかの研究では、低血圧であるメリットも報告されています。疫学調査によると、他に病気をもたない低血圧の人は、心臓に関わる病気の発生が少なく、長寿の傾向があることが報告されています。血圧というのは、高いほうが問題になることが多いですね。
「わたしは低血圧なので朝が弱いです」というフレーズは昔から世間に浸透しており、もはや通説となっています。あるいは、低血圧なので「元気がない」「肩こりがする」という訴えもよく聞きます。確かに日常診療の現場でこのような、いわゆる「不定愁訴」で受診される方の中に低血圧の方が多くみられます。そのため、低血圧との因果関係も考えられていますが、これは未だ明らかになっていません。例えば、朝の起床時でどの状態がつらいのかなど、その時の体調や他の様々な要因を考慮しなければならないので、血圧の値だけで論ずるのは難しい、ということでしょう。
日常の診療で、低血圧を問題として診るときは「起立性低血圧」の状態がある時です。簡単に言いますと、寝た状態から立ち上がって直ぐ(3分以内)に血圧が下がってしまい、めまいやふらつき、吐き気などを起こし、横になるとその症状は回復するというものです。起立性低血圧症は、高齢の方によくみられ、生活指導や治療が必要になります。
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◆※参考文献
1)松本善孝:J.Nara Med.Ass 43,424~436,1992.
2)松岡秀洋:日本医事新報No4371:90~92,2008.