2006.6月号
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Q. はしか(麻疹)とは、どんな病気ですか? |
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A. 麻疹ウイルスによる全身感染症です。発病すると、カタル期(3〜4日)⇒発疹期(4〜5日)⇒回復期(3〜4日)という経過をたどります。
カタル期:まず、「発熱・鼻水・せき」という、かぜのような症状で始まり、目が充血し、目やにも見られます。発熱して3〜4日後、口の中に細かい白い斑点が出てきます。これは「コプリック斑」と呼ばれ、医師は、麻疹を診断する決め手にしています。
発疹期:その後、高熱とともに、円形2〜3mmほどの赤い発疹が出始めます。首や顔、胸から始まり、しだいに手足へ広がります。それくらいになると発疹同士が融合し、色も暗褐色に変化します。かぜのような症状は続き、子どもはぐったりします。発熱は、カタル期と発疹期の二つの山をつくるのも麻疹の特徴です。
回復期:発疹の退色とともに、解熱します。発疹はすぐには消えず、色素沈着(茶色のしみ)が残りますが、1〜2週間で消えます。
麻疹ウイルスは、リンパ球で増殖し、胸腺を破壊します。リンパ球も胸腺も体の免疫にとって大事な働きをしており、免疫不全状態を起すことになります。それ故、麻疹の合併症として、肺炎や脳炎、中耳炎などが起こり、幼い子供にとっては重い病気となります。乳児の5〜6割、成人の7〜8割に入院治療が必要になり、患者の1000人に1人は、死亡という不幸な転機をとります。
麻疹ウイルスは、カタル期から、発疹出現後6日後まで排出されます。非常に伝染力が強く、いっしょに遊んだだけでうつります。(空気感染)ウイルスに感染すると、約10日の潜伏期を経て発病します。
特別な治療はなく、症状に応じて、咳止めや解熱剤などを使用します。細菌感染が二次的に起こって来た場合、抗生剤を投与します。家庭でのケアは、かぜと同じで、脱水状態にならないよう、水分補給に気をつけます。
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Q. 最近、修飾麻疹というのも聞きますが、これはどんな病気ですか? |
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A. 予防接種をしているにも関わらず、麻疹ウイルスに感染することがあります。この場合、麻疹の症状が軽く出たり、コクリップ斑などの一部の症状は出なかったりし、修飾麻疹といいます。診断をつけるのに大変苦労し、時には血液検査、遺伝子検査を用い診断します。多くの場合、軽症の経過をたどりますが、通常の麻疹と同様に麻疹ウイルスの感染源となり、知らず知らずのうちに麻疹感染拡大を起す可能性があります。
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Q. 麻疹は、新しい病気ですか? |
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A. いいえ、昔から「命定めの病気」として恐れられてきました。記録によりますと、1800年代の日本では、20〜40年おきに麻疹の流行があり、大人も子どもも多くの人が命を落としたと言います。
世界保健機関(WHO)と国連児童基金(UNICEF)は、全世界の麻疹による死亡者数が、2004年には45万4000人と報告。1999年の約87万1000人から半減しているものの、今だ多く、特に発展途上国では、感染症での死因の主な原因になっています。
日本では、かつて死亡者数が毎年200〜300人でしたが、1978年からの麻疹ワクチンの定期接種開始に伴い、近年10〜20人と減少しました。2001年の全国での麻疹流行以降、各地で「麻疹ワクチンを1歳のお誕生日のプレゼントにしましょう」というキャンペーンにより、ワクチン接種率が上昇し、麻疹「0」を宣言する自治体もでてきました。今回の茨城県や千葉県の流行は、麻疹排除に向け順調に進んでいた状況の中、残念ながら起こってしまいました。
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Q. 麻疹の集団感染を防ぐにはどのような対策をとる必要がありますか?
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A. まず、1)予防接種です。保健所や医師会等の地域のレベルでは、2)麻疹発生状況の正確な把握です。保育園・幼稚園・学校・医療機関などでは、3)麻疹患者発生時の対応マニュアルを作ることが大切です。
1)予防接種:2006年4月1日から、麻しん風しん混合ワクチンの2回接種制度が導入されました。(2006年6月2日からは、麻しんワクチン、風しんワクチンも接種できることが付け加わりました。) 2回接種により、接種もれを防ぎ、免疫の付きが弱かったり、一旦付いた免疫が徐々に低下してきたものを再度上昇させる効果があり、予防対策がより一層強化された形となりました。予防接種を必ず施行したいものです。
2)発生状況の把握:麻疹流行が懸念される地域においては、麻疹発生状況を、全て把握する監視体制をとり、麻疹発生に迅速に対応できるようにしたいものです。周辺地域の麻疹発生状況は、国立感染症研究センターのホームページにある全国の麻疹発生状況データベース(http://measles.jp/)が参考になります。
3)麻疹患者発生時の対応マニュアルの整備:平時からしておくこととして、麻疹ワクチンの未接種者を把握すると共にワクチン接種を推奨します。
麻疹患者発生(一人でも発生したら)時は、
1. 関係機関へ報告し、対策会議を開催します。
2. 発生患者との濃厚な接触者への二次感染を防ぐ必要があります。麻疹に対する免疫を持たないものが、麻疹患者と接触した場合、3日以内ならワクチン接種で、6日以内なら血液製剤の一種であるガンマグロブリン投与によって発病を予防することができると言われています。その集団の麻疹予防接種の未接種者に対して、緊急のワクチン接種を行う体制をとることが大切です。
3. 感染拡大防止策として、全校児童に麻疹発生を周知します。そして37.5度以上ある児童は、すぐに医療機関受診を指導します。
4. 麻疹終息宣言は、4週間あらたな患者発生がみられないことを確認して、公表します。このようなポイントをマニュアルに入れますが、マニュアルの基本例を国立感染症研究所(http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/index.html)でみることができます。
1)2)3)のような対策は、1つの機関だけでは有効に実施出来ません。学校や保育園、保健所・教育委員会・保育課等行政、医師会・小児科医会を中心とした医療機関、国立感染症研究所や地域の衛生研究所などがうまく連携をとり、地域ぐるみで対応していく必要があります。
麻疹は予防できる病気です。日本から麻疹を排除(麻疹発症を限りなくゼロに近づけること)を目指して努力して行きたいと思います。
この文章は、2006年5月30日に葛飾区医師会で開催されました講演会『今、麻疹を考え直すー茨城と千葉の麻疹の大流行に直面してー』をもとに作成いたしました。
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小坂 和輝
(こさかかずき)
智弁学園和歌山高校・広島大学を卒業し、聖路加国際病院小児科、東京女子医大循環器小児科学教室を経て、現在中央区月島で小児科専門クリニック(病児・病後児保育室を併設)を開業。中央区医師会理事。抗生物質の適正使用、児童虐待、ドメスティック・バイオレンス、少年犯罪、メディア・リテラシーについてNPOと連携して取り組む。本人は社会企業家でありたいと望む。小一と3歳の2児の父。趣味は株・飲むこと・走ること。
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