2006.4月号
|
Q. 睡眠の役割とは? |
|
A. 実験的に動物を眠らせないでおくと、やがて死んでしまうことが確認されました。解剖によると大脳の中の神経細胞が、傷つき、壊れしまっていたのだそうです。私達は、何日も眠らずにいることはできません。いくら頑張っても眠気が生じ、必ず眠り込みます。脳から、休ませてくれという信号が出るためです。睡眠は、脳や体の壊れた細胞の点検、修理のために必要なのです。 |
|
Q. 睡眠のメカニズムは? |
|
A. 「朝目が覚めて、夜眠る」というリズム、これを概日リズム(サーカディアンリズム)といいます。体温やホルモン分泌にも同様に一定のリズムがあります。このリズムを調整するのが、脳の中、視交叉上核(しこうさじょうかく)といわれる部分に存在する「体内時計」です。体内時計の周期は、地球の周期の24時間より少しだけ長くできていて、約25時間といわれています。放っておくと体内時計と地球時間は、約1時間ずつずれていくことになります。体内時計を地球の周期にあわせる働きを、主として朝の光が担っています。朝の光によって、体内時計の周期が短くなって24時間になるのです。もし、朝寝坊して、朝陽を浴び損ねると、生体のリズムを確立できなくなります。 |
|
Q. 夜更かしをすると、どうなりますか? |
|
A.
夜更かしを繰り返しますと、「朝寝坊⇒慢性の時差ぼけ⇒日中の活動量の低下⇒眠れない」という悪循環に陥ってしまいます。夜更かしや睡眠時間の減少により、次のような問題点が指摘されています。
1) 睡眠時間の不足から体の様々な変調につながる
少し乱暴ではあるのですが、大人に何十時間も眠らせないでおくとどうなるかという実験がなされました。すると、体の中の糖を分解するのに必要なインスリンというホルモンの分泌が悪くなり、また、交感神経の興奮状態が続きました。そしてワクチン接種の効力が減少しました。考える力が低下し、いらいらが増したという別の実験結果もあります。睡眠時間の減少は、糖尿病や高血圧の発症、免疫機能の低下、知的機能や情緒面への影響を及ぼすことが考えられます。
2) 成長ホルモンやメラトニンの分泌が減少する
睡眠時に脳の中で分泌されるホルモンの一つが成長ホルモンです。熟睡している間に分泌されます。成長ホルモンは、代謝を促進し、骨を伸ばし、筋肉を肥やす作用があります。文字通り「寝る子は育つ」のです。睡眠が減少すると成長ホルモンの分泌に悪影響を与える可能性があります。
もう一つ、睡眠時に脳の中で分泌されるホルモンにメラトニンがあります。一生のうち、1歳から5歳の間に多量に分泌され、子どもは「メラトニンシャワー」を浴びて成長するとさえいわれます。このメラトニンは、夜に分泌されますが、明るいと分泌量が減ります。メラトニンは、眠気を強くしたり、先ほどの体内時計の周期を、地球の周期に合わせる働きがあります。メラトニンの分泌の乱れは、概日リズムの乱れにつながります。
その他にもメラトニンは、抗酸化作用があると言われています。生物は、酸素を使ってエネルギーを作りますが、酸素には、細胞を傷つける性質があります。細胞が傷つくことで、老化やガン化が起こります。その酸素の毒性から守ってくれる「抗酸化物質」の働きをメラトンニンが担っています。メラトニンシャワーを浴びることができないと将来、ガン発生の可能性が高まるかもしれません。また、メラトニン分泌が十分にないと性的早熟を早める可能性もいわれています。
3) ステロイドホルモン(コルチコステロイド)分泌パターンが変わる
ステロイドホルモンは、血圧や血糖の調節、ストレスへの対処に大事なホルモンです。早朝に高く、夜間に低くなるという概日リズムを示しています。起床後のストレスに備え、その前にステロイドホルモンが上昇するのでしょう。夜更かしすると、朝は低く昼に高いという分泌のリズムの狂いが生じます。ステロイドホルモンが朝低いと、朝の体調不良の原因になります。午後に高くなれば、イライラの原因になります。ステロイドホルモンの分泌の乱れが、体調不良につながります。
4) 慢性の時差ぼけ状態(脱同調)になる
夜更かしをしていると、生体時計が地球の時間とずれた状態になります。海外旅行で経験する時差ぼけです。体温は、目覚める直前に一番低く、日中にかけて上昇し、最高体温の後、眠る前に少し下がるという概日リズムを示しています。そのリズムが乱れると、日中でも体温の上昇がみられず、体調不良のため、活動性が低下、考える力も低下します。運動不足は、脳で分泌されるセロトニンという物質の低下を引き起こします。セロトニンの低下は、攻撃性やいらいら感を増強させます。感情のコントロールが困難になる、いわゆる「キレる子」という状態です。
5) 肥満になりやすい
夜更かしや睡眠時間が減少すると統計的に肥満になりやすいと言います。肥満は、生活習慣病の元凶と言われています。
以上、夜更かしの問題点は科学的根拠が全て出揃っているわけではございません。とは言うものの、睡眠は、子どもの健全な心身の発達に欠かすことの出来ない要素です。子ども達に快適な睡眠の環境を与えていくことが、大人の責務だと考えています。
(参考文献 『眠りを奪われた子どもたち』神山潤 岩波ブックレット) |
|
|
小坂 和輝
(こさかかずき)
智弁学園和歌山高校・広島大学を卒業し、聖路加国際病院小児科、東京女子医大循環器小児科学教室を経て、現在中央区月島で小児科専門クリニック(病児・病後児保育室を併設)を開業。中央区医師会理事。抗生物質の適正使用、児童虐待、ドメスティック・バイオレンス、少年犯罪、メディア・リテラシーについてNPOと連携して取り組む。本人は社会企業家でありたいと望む。小一と3歳の2児の父。趣味は株・飲むこと・走ること。
小坂こども元気クリニックホームページ
「中央区のお医者さん」では、取り上げて欲しいテーマ、健康にまつわる疑問・質問を随時、募集しています。みなさんからのご意見をホームページ作りの参考にさせていただきます。たくさんのご意見お待ちしております。ただし、個人的な症状のご相談はご遠慮下さい。
info@tokyochuo.net
|