ひとつの漆器を仕上げるには30以上の工程があり、一度漆を塗った後は丸一日かけて乾かさなくてはいけません。今回は、削りの行程が中心の「江戸八角箸」の実演をお見せしましょう。
まずは、黒檀や紫檀を削り四角い形状の棒を作ります。これを台に固定し、面取りの要領で角をカンナで八角に削っていきます。つぎに普通のヤスリで箸の先にあたる部分を削ります。この状態ではまだ肌理(きめ)が粗いままなので、「一目(ひとめ)ヤスリ」(斜めに同じ方向だけ目が入っているヤスリ)でさらに磨きます。最後に布で拭き上げて出来上がり。中島の八角箸は、豆やコンニャクをつまんでも滑りません。現在では手に入らない上等の紫檀や黒檀を使っているのが自慢です。
今回は特別に漆塗りもお見せしましょう。はじめに、漆を油絵にも使うテレピン油で溶きます。毛髪で作った刷毛で馴染ませ、その後、和紙で漆を濾(こ)してゴミやホコリを取り除きます。不純物のないきれいな漆を準備したら、マスキングテープを貼って塗らない箇所を養生をした後、刷毛で塗って行きます。一度塗ると丸一日乾かすので、その日の行程はこれで終りになります。漆は気長に待つことも大切なのです。カンナで木を削るときは一本毎に木の反応が異なっているので、まるで木と対話をしているような気持ちになります。また、漆は科学塗料と違い硬化剤を入れなくても自分で水分と酸素を吸収しながら固まっていきます。まさに生きものを相手にしている手応えがあります。