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中央区のお医者さん

2005.4月号
 

子どもの風邪と抗生剤(抗生物質)

 インフルエンザのシーズンはようやく終わろうとしています。ただ、新たに始まった保育園や幼稚園でお風邪をもらってくるお子さんが多いようです。子どもの病気の中でも一番多い風邪、これには抗生剤は本来効きません。抗生剤を適切に使用することが、私たち小児科医に求められています。
ここでは、子どもの風邪の治療、すなわち上気道炎及び関連疾患(咽頭炎・扁桃炎・中耳炎・副鼻腔炎・気管支炎)の治療で、特に「抗生剤の正しい使い方」を中心に小児科医の観点から述べさせていただきます。

 

 

Q. この間、一歳の子どもが咳、鼻水と熱で小児科を受診しました。

  A. いわゆる風邪ですね。町の開業医の小児科に来られる約7割は、このような風邪のお子さんです。
  Q. 症状を軽くするお薬だけ処方されて帰りました。昔はよく、抗生剤も出されていましたが、今はあまり出されないのですか?
  A.  機嫌よくしていて、水分補給が十分なされている場合、お風邪では、基本的には抗生剤は出されません。最近、開業小児科医の学会(日本外来小児科学会)で、風邪に対しての抗生剤の使用に関し研究され、風邪に対する抗生剤適正使用のガイドライン、正確には「小児上気道炎に対する抗菌薬適正使用ガイドライン」が提唱されています。
  Q. あらためて、風邪(感冒)とは何ですか?
  A.  鼻からのどまでの「上気道」に感染が起こり、炎症を起した状態です。症状は、鼻水、鼻づまり、軽度ののどの痛み、咳、発熱等で、全身状態はよいです。原因は9割以上がウイルスです。
  Q. 抗生剤はウイルスには効かないのですか?
  A.  はい、効きません。抗生剤が作用するのは細菌に対してであり、ウイルスには効きません。効かないだけでなく、抗生剤が下痢や薬疹などのアレルギーの副作用を起す危険がありますので、安易な投与は控えるべきです。また、抗生剤が乱用されることで、抗生剤が効かない細菌(耐性菌)が生まれてきており、耐性菌による髄膜炎や
中耳炎に対し治療を難渋しているのが、現状です。
  Q. 風邪に、早めに抗生剤を投与することで、こじらせないようにはできませんか?
  A.  細菌の二次感染に備え、予防的に抗生剤をのむことは有効かどうかということですね。残念ながら、予防の効果はありません。
  Q. のどが非常に痛くて、病院にかかった時、抗生剤をもらったことがあります。のどが真っ赤で、扁桃が腫れ、白いものがついていると言われました。
  A.  咽頭炎・扁桃炎ですね。原因は多くは、ウイルスなのですが、一部A群β溶連菌が原因のことがあり、この溶連菌の場合に限り抗生剤が処方されます。溶連菌の診断は、のどの細菌を綿棒でとって、15分程で診断がつくようになっています。
  Q. 中耳炎には、抗生剤の効果はありませんか?
  A.  基本的に、急性中耳炎の始まりに抗生剤は使用しません。耳の痛みがある場合でも、抗生剤をのんでものまなくても、痛みの持続時間に差がないことがわかっています。耳だれが出ていても、1週間は外耳道の洗浄、清拭だけで、まずは治療します。耳に水がたまる滲出性中耳炎の予防効果も抗生剤にはないと言われています。 発熱、耳痛などの症状の改善がみられない場合、抗生剤が使われることもあります。
  Q. でも、あおい鼻水をずーっとたらしている子が抗生剤をのむと治るような気がしますけど。
  A.  副鼻腔炎のことをおっしゃっていると思いますが、抗生剤をのんでも効果はかわりません。少なくとも10日は投与しないのが一般的です。
  高熱・頭痛・顔面痛があり、咳や色のついた鼻水が悪化する場合は、抗生剤が使われます。
  Q. では、気管支炎には、抗生剤の効果はありませんか?
  A. ありません。気管支炎の原因はそもそもウイルスが多いため、効果はありません。百日咳やマイコプラズマ、クラミジアなどの特殊な病原体が原因で、咳が悪化していく場合に、抗生剤が使われます。
風邪ではないのですが、肺炎は7〜8割で細菌が原因であるため、原因菌にあった抗生剤を投与する必要があります。このあたりのところは、小児の感染症や呼吸器疾患の専門学会を中心に、別に「小児呼吸器感染症ガイドライン」が提唱されています。
  Q. 風邪といっても、単に上気道炎だけでなく、咽頭炎・扁桃炎・中耳炎・副鼻腔炎・気管支炎といろいろ関連した病気があるのですね。
  A. はい。あと、これは非常に専門的で細かい話にはなるのですが、小児科医が風邪の子を診る時に気をつけている点として、「感染病巣不明の敗血症(occultbacteremia)」という病態があります。血液に細菌が入り込んで体中をまわるもので、とくに髄膜炎を起こします。風邪の子の中に、ごくまれではありますが、この病気の子がまぎれこんでいます。そしてこの病態を早期に発見するのは非常に難しく、39度以上の高熱と採血データで白血球の数が1μl中に15,000個以上であれば、その可能性が高いと学会報告されていますが、実際これだけの指標ではなかなか早く診断できません。
  Q. こんな状態(「感染病巣不明の敗血症」)を防ぐためにも、抗生剤を早く投与すべきではないですか?
  A. いいえ。抗生剤は投与すべきではありません。なぜならば、抗生剤をのんでも予防や治療に役立たないからです。逆に、どんな細菌が血液に入り込んで体にまわっているかを調べるにあたって、抗生剤が細菌を隠してしまって、原因をわからなくさせてしまい、後の治療方針を立てにくくさせてしまいます。
  Q. 「感染病巣不明の敗血症」に何か対策はないのですか?
  A. 医師が「感染病巣不明の敗血症」の場合のことも念頭に起き、万が一ではあるものの、「悪化の状態があればすぐに、かかりつけ医や救急を再受診すること」を親御さんに分っておいて頂くことが必要です。
  そして、もうひとつ、「感染病巣不明の敗血症」の状態から重症髄膜炎に至る主な原因となる細菌に、インフルエンザ菌(インフルエンザウイルスとは別ものです。)という細菌がありますが、このインフルエンザ菌に対し、予防接種をして備える方法があります。ただし、欧米ではこの予防接種が一般的な定期の予防接種の一つとして実施されていますが、日本では、そのワクチン(Hibワクチン)の使用さえ認められておりません。
  Q. 早くインフルエンザ菌のワクチンの導入が望まれますね?
  A. その通りです。私たち小児科医がこのHibワクチンの導入の必要性を厚生労働省に訴えていく必要があります。Hibワクチンの採用に向け、現在どれだけインフルエンザ菌による髄膜炎があるのか、全国的に調査の必要がありますし、また、ワクチンが導入された場合は、そのワクチンの効果をきちんと評価していく機関を設置する必要があります。
  Q. 最後に小児科を受診して風邪の診断を受けたときには、家でどうすればよいか、教えてください。
  A. まず、適度な湿度の部屋で安静にし、水分補給を絶やさないことです。発熱自体は、心配するものではありません。発熱は体の変調を知らせてくれる重要なサインです。できれば体温を一日3回ほど計って体温表をつけておいて下さい。発熱はウイルスの増殖を抑制し、免疫の力を上げてくれます。
「いつもとちがい機嫌が悪い」、「うとうとして視線が合わず反応がいつもとちがう」「高熱が持続する」、「嘔吐しぐったりする」、「水分を取ろうとせずおしっこがでない」、「咳がひどくて眠れない」、「発疹やリンパ節の腫れ、腹痛、頭痛などの症状が悪化する」これらの、「すぐに医者にかかるべきタイミング」を知りながら、経過をみることです。
最後に、子どもは、年に5〜7回ほど風邪をひきますが、風邪をひいて、ひとつひとつ免疫をつけていき、小学校に上がる頃には、強い体になります。それをしばらくは待ちましょう。お大事に。

 
小坂先生
小坂 和輝
(こさかかずき)
智弁学園和歌山高校・広島大学を卒業し、聖路加国際病院小児科、東京女子医大循環器小児科学教室を経て、現在中央区月島で小児科専門クリニック(病児・病後児保育室を併設)を開業。中央区医師会理事。抗生物質の適正使用、児童虐待、ドメスティック・バイオレンス、少年犯罪、メディア・リテラシーについてNPOと連携して取り組む。本人は社会企業家でありたいと望む。小一と3歳の2児の父。趣味は株・飲むこと・走ること。

小坂こども元気クリニックホームページ


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2005年4月掲載記事  
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