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伝統技術[工芸編J]月島「刃物の左久作」「刃物の左久作」2代目店主 池上喬庸さん「刃物の左久作」2代目店主 池上喬庸さん
インタビュー映像がご覧いただけます。
 隅田川を築地方面から勝どき橋で渡ると月島になります。明治時代に埋め立てられ、まさに築かれた島(築島→月島)と言えます。その昔、近くの石川島造船所へ通う職人が多く暮らしていた地でもあり、現在では、もんじゃ焼き屋が商店街を連ねる下町情緒溢れる街として知られています。
  今月の「伝統技術ー工芸編ー」は、この地に、江戸時代からの伝統を受け継ぐ「刃物鍛冶(はものかじ)」左久作(ひだり ひささく)2代目店主・池上喬庸(いけがみ たかのぶ)さんにお話を伺いました。



鍛冶とは
 
 鍛冶屋は、日本刀、蹄鉄などの馬具、鋏(はさみ)等、手がける商品によって専門が分かれています。当店が手がけているのは、小刀です。大工、家具職人、能面打ちや楽器職人が使うノミ、カンナ、小刀を作る、いわばプロ仕様の鍛冶屋です。腕に覚えのある職人の厳しい要求に応える「仕事をするための道具」と言えましょう。かつて、多くの鍛冶職人が江戸に招かれて刀や馬具などを制作していた、その江戸鍛冶の伝統を引き継いでいます。

 
2代目を継ぐまで
 初代・左久作である父が、大正11(1922)年に月島で創業したのが始まりです。先代は、切れ味に優れ、粋な作りと生産性の高さから名人といわれた左久弘(ひだり・ひさひろ)の弟子として修業に入り、名跡を継いで「左久作」を襲名しました。
子供の頃から仕事をしている先代の姿を間近で見て育ち、高等小学校を卒業した14歳で先代に弟子入りしました。愛情を持って教えてもらいましたが、やはり後継者という意識が強く、大変厳しく仕込まれました。私は大正13(1924)年の生まれで、今年(2005年)81歳。かれこれ65年間鍛冶屋を続けており、この道を全う出来ることを喜びに思っています。
池上喬庸さん
    職人技
小刀の荒治から仕上げまで
 ひとつの小刀を仕上げるまでに、およそ2週間かかります。まず始めに、地金と刃金(はがね)を組み合わせる「荒治(あらじ)」を行います。地金には、神社・仏閣や古い蔵を解体した時に出でくる和釘や蝶番(ちょうつがい)などの和鉄を使用します。和鉄とは、タタラ製鉄法(日本古来の製鉄法)を用いて砂鉄から作られた鉄ですが、現在は入手が困難になっており、当店では、約350年前の和鉄も保管しています。火力の強いコークスで火を焚き、その中に地金や刃金を入れ、スプリングハンマーや金槌で打ちながら、ふたつを鍛接します。「鉄は熱いうちに打て」と諺にもあるように、スピードと集中力が要求され、まさに火花を散らす作業です。
「火造り(ひづくり)」では、「荒治」で鍛接した地金と刃金を火で熱した後に叩き、形を整えていきます。一連の行程は、感触を確かめるように素手で行われ、ハンマーに伝わる振動や音など、五感すべてを集中させます。
ひと晩かけてゆっくり熱を冷ました後、削って形を整える「仕上げ」をし、秘儀の水で冷却して硬度を出す「焼き入れ」を行い、さらに、砥石で研いで小刀の切れ味を出す「研ぎ」をします。刃先に表れる地金と刃金の組み合わせ加減に職人の技が生きづいています。また、産地の異なる2種類以上の和鉄を練り上げて複雑な模様を作り出すといった「技」もあります。

手順1手順2手順3
1.ホウシャと鉄ロウをまぶす   2.鉄をたたく   3.削って小刀の形を整える
   


鍛冶職人としての誇り
 
 かつては栄えていた鍛冶屋も大工道具が電動道具に取って代わるにつれて需要が減り、現在、江戸鍛冶は当店のみとなりましたが、全国各地や海外からも注文があります。
特に、京都や奈良などの古い神社仏閣や大仏の修理等に携わる職人から信頼を得て「よく切れる小刀だ」と気に入ってもらい、大切に使っていただけることは嬉しい限りです。宮大工の名棟梁として法隆寺の昭和大修理などに功績があった故・西岡常一氏が「今度、薬師寺西塔を手がけるので、是非ともお願いしたい」と注文を下さった時は、職人冥利に尽きました。職人は皆「誠実」に仕事をし、同様に私もひたすら「誠実」に道具を作っていく。これが鍛冶職人としての誇りでしょうか 。

 
月島

月島の子供たちに、職人の心を伝える
 
 私自身は月島で生まれ育った月島ッ子です。地域との繋がりでは、近所の月島第一小学校から依頼を受け、職人の仕事について話す機会が何度もありました。子供達が感想を作文や絵にして贈ってくれたり、今や女子高校生に成長した当時の小学生が店の近くを通った際に「まだまだ元気でやってますね」などと声をかけてくれたりします。こうして次世代を担う子供たちが、私たちの仕事を知って興味を持ってくれるのは、有難いことです。
幸い、長男・喜幸(のぶゆき)も後継者として育っています。81歳の現在も親子二人三脚で鍛冶職人をやっていられるのが、なによりの喜びです。

 

 
DATA  
店舗
刃物の左久作
プロ仕様から一般向けまで、誂えの小刀・ノミ・カンナを各種製造販売。大小刀(刃の長さ2寸 全長6寸3分 幅9分から9分5厘くらい)18,000円(税・送料込)、使いやすいので各地の木工教室でも取り上げられている、汎用小刀(刃の長さ1寸3分位 全長6寸位 幅6分から6分5厘)7,000円(税・送料込)、諸刃小刀(もろはこがたな)(刃の長さ1寸3分から1寸6分位 幅6分前後 全長6寸位)12,000円(税送料込)など。誂えなので、詳細については相談に応じてもらえる。インターネットでの注文も受け付けている。

住所:中央区月島三丁目17番地2号
電話:03-3531-1625
FAX:同上
URL:http://www1.odn.ne.jp/hidari/
E-mail:ccg21460@nyc.odn.ne.jp
最寄り駅:東京メトロ有楽町線/都営地下鉄大江戸線「月島」駅営業時間7:00am〜10:00pm 事前連絡いただければ、年中無休 来店は午後1時以降が望ましい
 


2005年2月掲載記事  
※内容は、掲載当時のものとなります  
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