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伝統技術【工芸編-2】銀座「中澤かつら店」映像がご覧いただけます。 Windows Media Player ソフトのダウンロード Real Player ソフトのダウンロード 「中澤かつら店」看板「中澤かつら店」 三代目店主 中澤利晃さん
 銀座には江戸時代から「山村座」や「森田座」といった大劇場があり、当時の地名から「木挽町の芝居」と呼ばれ有名でした。歌舞伎座が明治21(1888)年に創建され、約400年に渡り、歌舞伎という日本を代表する文化を育ててきました。そして、それを陰で支え続けてきたのが「かつら」です。歌舞伎座をはじめ劇場の多い中央区には、それに比例してかつら店が多数存在し、伝統の技を守り続けています。今月の「伝統技術-工芸編-」は、歌舞伎座の側にお店を構えるかつらの「床山(とこやま)」、中澤かつら店三代目店主・中澤利晃(としあき)さんにお話を伺いました。

中澤さん
床山とは
 かつらを作り上げるには、現在は分業制がとられ、お客様の頭の形に合わせた土台にアミを付けて髪の毛を植え、かつら本体を作る「かつら師」と、それを結い上げる「床山」に分かれます。当店は二代目・父の代まで両方を受け持っていましたが、父の意向により私は床山として、弟はかつら師として修行してきました。現在、弟は独立し、かつら師として自分のお店を構えています。

三代目を継ぐまで
 私は昭和13(1938)年に中央区銀座で生まれ、以来この地に住み続けています。昭和30(1955)年から7年間、歌舞伎座で床山の修行を積みました。親方や先輩の技術を観察し、歌舞伎の舞台を観て、自分なりに研究を重ねたものです。昭和37(1962)年からは父の下に戻りましたが、当時は歌舞伎座の修行にやり甲斐を感じていたので、後ろ髪を引かれる思いでした。父が昭和63(1988)年に他界し、その後三代目を継ぎました。
 初代・祖父の時代は「地(ぢ)かつら」と言って、芸者家や婚礼のかつらが専門でしたが、二代目・父の時代になって日本舞踊や演劇用のアミかつらを手掛け、現在に至っています。
 
職人の「技」
 ひとつのかつらを結い上げるのに1時間から1時間半程かかります。髪型の種類は数多くありますが、どの型にもそれぞれの難しさがあります。床山はかつらを結い上げるだけでなく、「さし物(かんざし等)」を役に合わせて取付け、お客様にかつらを付けて差し上げるまでが仕事。さし物で役の雰囲気が強調されますが、さし物がなくても、結い上げたかつらの「まげ」の位置や「たぼ(後ろ髪)」の丸みなどを見ただけで役の年齢や身分が解るように作らなければならない、と私は教えられてきました。
 床山は、ひと通りの「技術」があれば難なく務まると思います。しかし、さし物無しでも役を雄弁に語るかつらを結い上げるには「技(わざ)」が必要なのです。そのためには感性が大切です。感性は教えたり教わったりするものではなく、芝居を観たり他人の作品を観たりして、数多くの仕事をして、自らが審美眼を養う以外にありません。私も早く「技」の域に達することができるように、未だに努力し続けています。

1.くせ直し。髪全体を丁寧にとかし、熱したコテでなでつける2.「襟足(たぼ)」「びん」「前髪」「まげ」の順に結い上げる3.最後に「まげ」を整える
1.くせ直し。髪全体を丁寧にとかし、熱したコテでなでつける  

2.「たぼ(襟足)」「びん(両脇)」「前髪」「まげ」の順に結い上げる

 

3.最後に全体をくしで整える

先代 中澤直行さん
先代
中澤直行さん


明治以降の若い人の正装「高島田」
明治以降の若い人の正装
「高島田」

中澤さん
舞台全体の和
 日々心掛けているのは「お客様に喜んで頂くこと」です。お客様がかつらを気に入って、舞台を終えても被ったままでいてくれるのが何よりの喜びです。満足して頂けなかったお客様がすぐにかつらを取りたがっている姿を見ると心から申し訳なく思い、原因を考え、反省し、同じ失敗を繰り返さないようにしています。
 お客様の満足度を計るには、「つけ心地」と「見栄え(みばえ)」のふたつのポイントがあります。床山の領域の「見栄え」に関しては、いくら床山がかつらだけを見て美しく仕上げたとしても、衣装や化粧と合っていなければ観る人にちぐはぐな印象を与えてしまいます。そのため、依頼を受けた段階でお客様の体型や顔の形を記しておき、衣装の色柄等を確認することが重要となります。
 つまり、お客様の満足のゆくかつらを作るためには、周囲との「和」が大切なのです。そして、かつらだけではなく「ひとつの舞台」を作っていることを常に念頭に置き、舞台全体の調和が保たれるように留意しています。その意味では、かつらは究極のオーダーメイドである、と言えるかもしれません。

集中力の中で
 制作中は常に舞台とお客様をイメージし、四方八方に神経を張り巡らせて集中するので、ついつい無口になってしまいます。「職人は偏屈で取っつきにくい」と世間一般では思われていますが、作業中に無口になってしまうのはひとえにお客様のことを考えているからなのです。自分の腕を上げるには、集中して仕事しなければならないのです。

かつらの今後
 昨今では一般のお客様はいらっしゃいません。以前、正月の晴れ着にはかつらを付けたものですが、今ではその習慣はなくなりました。しかし、日本舞踊や商業演劇が日本から姿を消してしまうことはないので、仕事量の心配はしていませんが、材料の確保が現状の課題です。近ごろ単価が上がっている人毛は完全に輸入に頼っている状況で、今後も安定供給が見込めるか否かが不透明です。代替品としてナイロンの人工毛がありますが、熱で溶けてしまうので日本髪は結えません。本来は、日本人の髪の毛を使用するのが最善ですが、難しい問題となっています。
 
店内

 
DATA   店舗
中澤かつら店

住  所:中央区銀座4-14-1(歌舞伎座裏)
電  話:03-3541-6464
F A X:03-3541-6496
営業時間:9:00〜18:00(お客様のご都合で夜間も応対します)
     
不定休

 


2004年5月掲載記事  
※内容は、掲載当時のものとなります  
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