第8回 EDO ART EXPO公式ガイドブックより、初代観光庁長官本保芳明氏とEDO ART EXPO総合プロデューサー山田晃子氏の対談を掲載しています。

山田 我国では2003(平成15)年に小泉内閣総理大臣のもと、「観光立国宣言」がなされました。2008(平成20 )年に国土交通省の外局として新設された、観光庁の初代長官をお務めになった本保芳明さんと「第8回EDO ART EXPO」の開催を記念して、国内外の観光の現状、日本の歴史、伝統や文化の魅力などについてお話をさせていただきます。在任中はリーダーシップを発揮し、その実行力に敬服された方々も多くいらっしゃったと伺っておりますが、ご経歴についてお聞かせください。

本保 私は北海道小樽の出身で、大学卒業後は国土交通省(旧運輸省)に入省しました。日本郵政公社の発足時に初代総裁とのご縁で転職した後、2007(平成19)年に再入省し国土交通省大臣官房総合観光政策審議官を経て、観光庁長官の任につきました。当時を振り返ってみると観光庁という新たな組織が軌道に乗るように、レールを引くのが私の仕事であったと感じています。任期中の2008(平成20)年8月には、第34回主要国首脳会議(通称:北海道洞爺湖サミット)を契機に国際観光振興の推進を目指し、観光立国推進戦略会議において提言をまとめました。
 現在は観光庁参与、首都大学東京特任教授に従事し、シンポジウムなどのコーディネートや講演などにも携わっています。


山田 インバウンド(訪日外国人旅行者)の数字は2013(平成25)年に初めて1,000万人を超え、翌年には
1,340万人、本年1月から7月までで既に約1,105万人と順調に伸びてきました。要因として円安やアジア諸国の成長、ビザの緩和、消費税免税制度の拡充、またSNS(ソーシャルネットワークサービス)などITの進化が挙げられています。

本保 私は円安についてはロングタームで見ると為替が円高の時でもインバウンド数が増加していたので、あまり影響がないと考えます。もちろん円安は短期的には、日本観光を手頃にしているでしょう。今や国際観光客数は世界全体を見ても高度成長し、2030(平成42)年には18億人規模に達すると予想されています。この様な背景の中で日本が経済成長を遂げているアジアの新興国を、マーケットとして取り込めるようになってきたのが外的な要因の一つです。日本は戦後の一時期を除くと観光産業には力を注いで来ませんでしたが、現在の安倍政権下のスピーディな政策転換でビザを緩和したのも大きく状況を変えたと言えるでしょう。
 また、航空自由化の協定(オープンスカイ協定)でLCC(格安航空会社)を含めて路線が充実し、更に羽田空港の国際化や成田空港の増便により、インバウンド数が大きく飛躍できたのです。
 これらに政府を挙げて推進してきた観光施策のプロモーション効果が相乗し、現状に導いたと推測しています。


山田 今や私たちの生活にもインバウンドという言葉がすっかり定着して、インバウンド観光は注目の的です。急速なインバウンドの増加により、国内のマーケットシェアにもさまざまな影響が出ているように見受けられますが。

本保 観光産業に携わる方々においても、これほど多くの外国人を迎えるのは初めての経験で、文化や風習の違う外国人が求める観光ニーズに直面しているでしょう。しかし、私はそこに必然的な観光イノベーションが起きて新たに魅力的なサービスが提供され、結果として日本人の国内観光も活性化するのではないかと期待感を持っています。


山田 2020(平成32)年東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まり、国民のマインドが明るくなったと感じられます。大会後のオリンピック・レガシ―にも視点が注がれ、その創出が取り上げられていますね。

本保 おっしゃるように国内のムードを変えただけでもオリンピックは、素晴らしい効果を発揮していますよね。但し1964(昭和39)年の東京オリンピックは日本が先進国入りを内外に宣言し且つ証明した大会でしたが、今回は成熟した国家として開催するオリンピックであり、遥かに難しいでしょう。
 レガシーについては、2000(平成12)年のシドニーではオリンピック後の科学的な調査を行い、10年タームで見ると経済効果の5~6割は観光であったと解っています。また、前回の2012(平成24)年ロンドンオリンピックもこの点を意識した運営を行い大成功しました。裏返せば観光面での成果を残せるようなオリンピック運営をしないと、レガシーの確保が難しいという事由です。

山田 オリンピックは「もてなし」を含めて、日本人が日本文化を見直す良い機会になるでしょうね。私たち都心4区の名店、企業、ホテル、神社仏閣や文化・観光施設、教育機関など、既存の60カ所以上の施設が連携して「EDO ART EXPO」開催しています。前回の第7回では、国内外から約40万人もの方々が各パビリオン(会場)を訪れてくださいました。同時に催す「東京都の児童・生徒による“江戸”書道展」は本年で第4回を迎え、東京オリンピック・パラリンピックを見据えた文化プログラムとして、此の度から題材に「世界の国々を漢字で書く」を加え公募しました。今後も日本の伝統、文化を次世代に継承し、その魅力を世界に向けて伝えられるよう努めていく所存です。

本保 素晴らしい事業を展開していらっしゃいますね。若い世代や訪日外国人には直線的に日本の歴史や伝統、文化を押し付けるのではなく、存在の意義やその根底にある価値に関心を見出す手がかりを示すのが大切です。
 そのような観点からも、EDO ART EXPOで歴史を積み重ね、集積して現在に至る老舗や神社仏閣がパビリオンとなり参画し、浮世絵など日本の伝統や文化を伝える工夫をしていらっしゃるのは大変に意義深くシンボリックであると思います。東京オリンピック・パラリンピックとその後に向けた大切な取組期間ですから、官民一体で協力し気運を盛り上げていきたいですね。


■撮影:小澤正朗  ■撮影協力:ロイヤルパークホテル

■衣 裳・ヘアメイク・着付け:

衣裳らくや
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